胃もたれ・食後の胃の重さについて
胃もたれの原因は、「脾胃の冷えと虚弱」による消化力の低下です。
ムカつき・重さ・食後のつかえ感を、鍼灸で胃の火力を温め直し、内側からやさしく整える。
全身のバランス（体質）を調え、食後に眠くならない、スムーズな消化のリズムを取り戻します。
本ページの内容（目次）
胃もたれを「脾胃（消化器）の冷えと虚弱」という観点から根本的に見直し、食後に元気でいられる体質を目指す道筋です。
胃もたれの症状と東洋医学的な定義：脾胃の「消化力低下」
「胃がムカムカする」「胸がつかえる」「胃のあたりが重い・張る」といった胃もたれは、特に食後や連日の会食で感じやすい不快感の総称です。東洋医学では、これは主に脾胃（ひい：消化器全体）の機能が低下し、飲食物を下に送り、消化する力が弱まっている状態と捉えます。まるで、消化という名の「調理」をするストーブの火力が弱り、鍋の中の食べ物が長時間停滞してしまったようなものです。
主な自覚症状と体質的なサイン
- 胃の重さ・むかつき・つかえ感：胃に入ったものが停滞し、正常に下降（降濁作用）できていない状態です。食べ物が「居座っている」感覚を伴います。
- 膨満感・げっぷ・食欲低下：未消化物が胃に溜まり続けると、異常な「気」の滞りや「湿（しつ）」という病理産物を生み出し、お腹の張りやガス、食欲の低下につながります。
- 吐き気・倦怠感（食後にだるい）：胃の気が正常に下降せず、逆流（上逆）することで吐き気につながります。また、消化にエネルギーを使いすぎてしまうため、食後の強いだるさ（食後の眠気や疲労感）を伴うことが多いのも特徴です。
東洋医学の見立て：消化の火力が落ちる「脾胃虚弱」のメカニズム
東洋医学では、胃もたれの原因を「未病の状態で、消化機能が限界を迎えているサイン」と捉えます。特に、消化吸収を司る「脾（ひ）」と胃（胃）の機能が低下した脾胃虚弱（ひいききょじゃく）が背景にあります。
要点：機能低下と冷えの連鎖
胃もたれは、「冷え」と「疲労」によって、胃の本来持つ消化力が失われることで発生します。
- 胃への血流低下とお腹の冷え：胃腸の周囲が冷えること（特に冷たい飲食物や薄着）で消化器系への血流が落ち、消化酵素の働き（火力）が低下し、食物の停滞を招きます。
- 悪循環：消化に時間がかかる→食べ物が長く胃に残り、「湿（しつ）」という未消化物が溜まる→さらに胃に負担がかかり機能が低下する、という負の連鎖が起こります。
- 増悪因子：疲労（脾の気の消耗）、ストレス（肝の滞り）、過食、飲酒は、いずれも脾胃に大きな負担をかけ、症状を増悪させます。
- 根本改善の鍵：低下した消化器系を司る「脾」のはたらきを温めて高める（健脾温中）ことこそが、根本改善への鍵となります。
胃もたれの悪循環の流れ
まるで、火力の弱いストーブで大きな鍋を温めるようなものです。処理しきれない未消化物が胃に残り続けます。
- 胃の機能が落ちる（疲労・冷えによる血流・体温低下）
- 消化が遅れ、食物が長く胃に残る（停滞）
- 処理のためにエネルギー消耗が増える（食後の強い倦怠感）
- さらに脾胃の機能が低下する（火力がますます弱る）
- 次に入ってきた食物が重なり、もたれが持続・慢性化
西洋医学のアプローチ：症状のコントロールと「二本柱」のすすめ
西洋医学では、胃もたれという症状に対し、「今ある不快感」を緩和することに焦点を当てます。これは、目の前の苦痛を取り除くための、重要な第一歩です。
西洋医学の役割と東洋医学との連携
- 生活指導と薬物療法で症状コントロール：胃の動きを助ける消化薬や、胃酸を抑える薬などを用いて、胃の不快感を軽減します。同時に、食事や姿勢に関する生活指導が行われます。
- 一時的な緩和と根本改善：薬で症状を抑えることで、一時的な緩和は期待できます。しかし、薬の服用を止めると、胃の冷えや弱りという「体質の火種」が残っているため、症状がぶり返しやすいのが実情です。
- 東洋医学との併用を推奨：西洋医学の「即効性」と、東洋医学の「体質改善力」を組み合わせた「二本柱の治療」が最も効果的です。鍼灸と養生で脾胃の火力を高め、もたれが再発しにくい強固な土台づくりを目指すことをおすすめします。
鍼灸施術（経絡治療）：低下した「消化の火力」を回復させる
胃もたれは、「脾胃（消化器）の冷えと虚弱」が核心です。当院の鍼灸治療は、薬のように胃の働きを外部から操作するのではなく、ご自身の内なる「消化の火力」を温め直し、食べ物をスムーズに処理できる力を回復させます。
狙いと効果感：脾胃の底上げ
- 消化のリズムを回復：胃腸（脾）と呼吸（肺）の連動を高め、気の巡りをスムーズにします。胃の停滞感を解消し、食べ物を下へ送る正常なリズムを取り戻します。
- 冷え・血流の改善：お腹の冷え（脾胃虚寒）を温かいお灸などで整え、胃への血流を増やします。消化酵素の働き（火力）が活性化することで、食後の重さやだるさを根本から軽減します。
- やさしい刺激で安心：胃もたれの方は疲労が蓄積しているため、強い刺激は体力を消耗させます。痛くない、熱くない、心地よい刺激で治療を行い、体がリラックスする（副交感神経優位になる）時間を確保します。
代表的なツボの役割
診断（四診法）に基づき、冷えの強さや気の滞りの程度に合わせてツボを選びます。
- 中脘（ちゅうかん）：胃の真上にあり、胃の機能を調整し、滞った気と未消化物を流す重要なツボです。温灸で温めることも非常に効果的です。
- 足三里（あしさんり）：胃の経絡上のツボで、**胃腸全般の底上げ**をする代表的な「長寿のツボ」です。食後の倦怠感を和らげ、全身の元気（気）を養います。
- 天枢（てんすう）：大腸の動きを調整し、胃の停滞感が腸まで影響している場合に、スムーズな排泄を助けます。
- 孔最（こうさい）：呼吸器系のツボですが、自律神経の調律作用があり、ストレスや気の滞りからくる胃もたれの緩和に役立ちます。
自宅でできる対処法：弱った「脾胃の火力」を助けるセルフケア
鍼灸治療と並行して、日々の生活で「脾胃（消化器）」を冷やさず、労わることが胃もたれ解消の鍵です。薬に頼る前に、まず以下のセルフケアを試みましょう。
① 食事習慣の見直し：胃を休ませる
胃の疲労を取り、消化の力を回復させるための生活習慣です。
- 空腹を感じてから食べる：胃に食べ物が残っているうちは、次の食事を控えましょう。間食は胃の「連続稼働」となり、疲労を増悪させます。
- 冷えと「湿（しつ）」の元を断つ：飲み物は一気に飲まず少量ずつ。冷たい飲食や白砂糖は、胃の「火力」を奪い、未消化物（湿）を溜める最大の原因となるため控えましょう。
- 回復時間を確保：食事間隔を十分に取り、完全に消化してから次の食事に移るリズムを体に取り戻させましょう。
- 推奨食材：温かい調理の鮭（鍋や煮物など）は、胃腸を温め、消化吸収の力が強いとされる食材です。お腹を内側からやさしく温めましょう。
② 東洋の知恵：梅醤番茶（うめしょうばんちゃ）
「梅」は酸味で胃を整え、「生姜」で温め、「醤油（番茶）」で気の巡りを助ける、東洋医学的な胃腸の養生茶です。
- 梅干しを湯呑みで練り、醤油大さじ1・生姜汁2〜3滴を加えます。
- 熱い番茶（例：三年番茶）を注いで完成です。
- 食後の重さ、冷え、体のだるさ（気虚）にやさしくアプローチします。
③ お灸・ツボ押し：脾胃に直接エネルギーを注入
お腹の冷えや、消化不良に特に効果的なツボです。
| ツボ | 位置・特徴／東洋医学的な狙い |
|---|---|
| 中脘（ちゅうかん） | へそとみぞおち中間。胃の募穴（気の集まる要所）。胃の働きを高め、冷えを直接温める特効穴です。 |
| 足三里（あしさんり） | 膝下外側、指4本分下。胃の経絡上のツボで、胃腸全般の元気（気）を養い底上げします。 |
| 孔最（こうさい） | 肘と手首の中間よりやや肘寄り。自律神経の調律作用があり、**ストレス性の気の滞りからくるもたれに。 |
| 梁門（りょうもん） | 中脘の外方。胃の停滞感があるときに押し、胃に溜まった未消化物や気を流します。 |
| 裏内庭（うらないてい） | 足裏の要点。胃腸の急なムカつきは食あたりに効く、いわゆる「特効ツボ」です。 |
④ リラックス（自律神経の調整）
胃もたれは自律神経の乱れ（肝の滞り）と連動しています。意識的に副交感神経を優位にしましょう。
- 好きな方はペパーミントなどのアロマを入浴やミストに使いましょう。気の巡りを整える作用があり、緊張をゆるめます。
- 深呼吸や瞑想で緊張をゆるめ、消化のスイッチ（副交感神経）が入りやすい状態を後押しします。
料金について
初回：5,500円（税込）
2回目以降：5,000円（税込）
院長プロフィール
中村 麻人（なかむら あさと）
札幌「東洋中村はり灸院」院長・鍼灸師。
「森を見て木を治す」東洋医学の視点で、肩こり、腰痛をはじめ、生理痛・顔面神経麻痺・潰瘍性大腸炎・耳管開放症など病院で原因不明、治療法がない慢性疾患を中心にはり治療を行っています。