股関節症は、股関節の痛み、こわばり、可動域の低下をともなう状態です。特に、変形性股関節症（軟骨の摩耗）が最も多く見られます。

症状と治療のゴール設定

• 代表的な痛み： 歩き始めのズキッとした痛み、階段の上り下り、立ち座りのつらさ（特に股関節の前側や足の付け根）。天気や冷えでの悪化も頻繁に見られます。
• 可動域の制限： 足を開きにくい、曲げにくい、靴下を履きづらいなど、日常生活の動作に影響が出ます。
• 画像と症状のズレ： 画像（レントゲン）上の変化（軟骨の摩耗度）と、自覚症状の痛みが比例しないことが少なくありません。画像が重度でも痛みが軽かったり、逆も然りです。

鍼灸治療のゴールは、毎日の「動き」に伴う困りごと（歩行距離、立ち座りのつらさ）をどう減らすかという現実的なQOLの向上にあります。

当院では、画像だけでなく、股関節を支える「全身の巡り」や体質（肝・腎の弱り）を評価し、股関節周辺の負担をやわらげる設計でアプローチします。

東洋医学における痛みの根本原則は、「不通即痛（ふつうそくつう）」、すなわち「通り（巡り）が悪ければ痛みが出る」という原理です。

股関節症における「不通則痛」のメカニズム

• 滞り＝痛みの温床： 気・血・水という身体をめぐるエネルギーと栄養の巡りが、冷え、疲労、姿勢の偏りなどで滞ると、股関節周辺の筋肉や腱に栄養が行き渡らず、炎症や強いこわばりが生じ、痛みが居座りやすくなります。
• 巡りの回復が肝心： 循環障害は痛みの温床です。鍼灸治療で滞りを流す（通則不痛）ことで、新鮮な血流が患部に届き、痛み・こわばりの軽減が期待できます。

  例えるなら、股関節という「交差点」の血流渋滞を解消し、「老廃物を排出する」イメージです。

• 多様な痛みへの対応： この「不通則痛」という観点は、画像に映らない慢性的な痛みや、天気・冷えで悪化する多様な痛みにも応用できる、東洋医学の重要な治療原理です。

鍼灸治療で得られた巡りの改善を維持し、股関節への負担を最小限に抑えることが、症状安定と可動域維持の鍵となります。

股関節を労わる5つの習慣

• 姿勢・体位（負荷分散）： 長時間の同一姿勢を避け、立ち上がり・歩き始めはゆっくり行いましょう。座位は浅すぎず深すぎず、骨盤が中間位（軽く前傾）になるように意識します。
• 動き方（炎症と拘縮の予防）： 痛みが強い日は無理をしないことが鉄則です。可動域は小さく保ち、徐々に軽い運動で範囲を広げていくようにしましょう。
• 温めと呼吸（不通則痛の解消）： 股関節〜お尻〜太もも外側を入浴や温罨法（おんあんほう）で冷やさないよう温めます。長い呼気（息をゆっくり吐く）で全身の力みを抜くことで、肝（筋の柔軟性）を助けます。

  冷えは「不通則痛」を招き、痛みを悪化させるため、特に重要です。

• 負担の分散： 片側ばかりに荷重をかけたり、重い荷物を偏らせたりするのを避け、段差や階段では積極的に手すりを併用しましょう。
• 睡眠・呼吸の質（回復力の底上げ）： 同じ時刻に寝起きし、就寝前の強い光を控えます。質の良い睡眠は、軟骨や骨（腎）の修復を後押しします。

【回復の鍵】
痛みが強い日は無理をしないことが最優先です。小さな調整の積み重ねが、結果として巡りを整え、可動域や痛みの改善につながります。