帯状疱疹後神経痛(PHN)の慢性痛治療
衣服が触れてもしみる「アロディニア」やピリピリとした痛みは、炎症後の「邪気(瘀血)」の残留が原因です。
「不通即痛」の考えで全身の気血の巡りを整え、神経の過敏性(痛みの閾値)をやさしく下げていく。
背中・胸郭・上腕に走る痛みの再燃しにくい土台を内側から作り直します。
本ページの内容(目次)
薬で治まらない慢性的な神経痛に対し、東洋医学の視点から痛みの根本(邪気の残留)を取り除き、体質改善を目指す道筋です。
症状の特徴と西洋医学の限界:鎮火後の「気の停滞」
帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の発疹が治った後も痛みが残る状態を指します。東洋医学では、これはウイルスによる炎症の「熱邪(ねつじゃ)」が経絡を焼いた後に、その場所に「瘀血(おけつ:血の滞り)」や「湿熱(しつねつ)」といった病的な邪気が居座り、気血の巡りを遮断しているために起こると捉えます。
よくある訴え:「不通則痛」による慢性的な苦痛
- 肩甲骨〜背中・胸郭・脇のライン:痛みが肋間神経に沿って帯状に出ます。これは経絡(特に肝・胆・脾の経絡)の流れに沿った痛みの現れです。
- 衣服や風が触れるだけで痛む(アロディニア):神経の修復が不十分で過敏化している状態です。東洋医学では「気のバリア(衛気)」が損なわれ、外からのわずかな刺激にも耐えられない状態と捉えます。
- 鈍い感覚・違和感、ピリピリ・ビリッと電気様の痛み:麻痺や鈍さ(気血の不足)と、鋭い痛み(気血の停滞・詰まり)が混在し、経絡の通りが極めて悪いことを示しています。
- 発疹が治った後も痛みが続く:炎症の熱が引いた後、その場に瘀血や病的な湿が残留し、神経の通り道(経絡)を慢性的に塞いでいる状態です。
西洋医学(病院)の経過と課題:対症療法の限界
- 対症療法が中心:発症時は抗ウイルス薬、その後は鎮痛薬、神経の興奮を抑える薬(プレガバリンなど)、神経ブロックなどで痛みの信号を遮断・緩和します。
- 慢性化すると薬だけでは限界:薬は神経の興奮を鎮めますが、経絡に残留した瘀血や湿熱という「病気の残りカス」を取り除くことは困難です。そのため、薬だけでは痛みの閾値が十分に下がらないことが多いのです。
- 検査で異常が見つからず痛みが残る:画像検査や血液検査で新たな異常が見つからないにもかかわらず、痛みが残る場合、これは機能的、体質的な「気血の停滞」の問題である可能性が高く、東洋医学の得意分野となります。
東洋医学の考え方:痛みの「残りカス(邪気)」と「正気の不足」
帯状疱疹後神経痛の治療は、経絡に固く居座ってしまった「邪気(瘀血や湿熱)」を取り除くと同時に、神経を回復させる体内の力(正気)を補うことが二大原則です。
体質(五臓六腑)からの把握:痛みに強い土台づくり
痛みの閾値が下がっているのは、全身のエネルギーが消耗しているサインです。
- 四診法で弱っている臓腑を把握:脈・舌・腹部などを見る四診法で、ウイルス感染で消耗した体力(気血)や、疲弊した五臓六腑(特に心・腎)のどこが弱っているかを把握します。
- 内側の力を底上げ:麻痺や鈍い痛みを改善するため、気血を生み出す力を底上げします。体の内側の力を底上げすることで、痛みの閾値(いきち)を下げ、衣服が触れる程度では痛みを感じない体質の土台づくりを目指します。
不通即痛 × 経絡の調整:気の流れを再開させる
痛みの原則である「不通即痛」を解消するため、痛みが生じている部位を流れる経絡を調整します。
- 不通即痛:「通じざれば則ち痛む」。神経の通り道を塞いでいる「瘀血」や「湿熱」といった邪気を鍼灸で散らすことで、まず「通す」ことを目指します。
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痛むラインに沿って経絡を選別:痛みが走るラインは、体表の経絡の流れと一致しています。
- 側胸〜脇:胆経/前胸部:胃経/背部:膀胱経
- 局所だけでなく全身のつながり:痛みのある局所だけでなく、手足のツボ(遠隔取穴)など全身のつながりを整えることで、効率よく気血の流れを改善します。
鍼灸の進め方:残留した「邪気」の除去と「回復力」の底上げ
帯状疱疹後神経痛の鍼灸治療は、痛む局所だけでなく、痛みの原因となる「病の残りカス(瘀血、湿熱)」を全身から散らし、神経の修復に必要なエネルギー(気血)を補給する二段階で進めます。
施術の流れ:体質の地図を読む四診法
- 四診法で体質と痛みの分布を確認:脈や舌から体力の消耗度合い(正気の虚)と、痛みのライン(経絡)、アロディニアの誘発因子を緻密に確認します。
- 経絡治療で全身の巡り・自律のバランスを調整:麻痺や痛みが残る部位に気血を導く(疎通)とともに、自律神経(心・肝)の過敏さを調整し、痛みを感じにくい土台を作ります。
- 温熱(灸)で皮膚の過敏をやさしく鎮める:神経過敏や痛みが強い部位は、強い刺激を避けます。皮膚刺激は最小限にし、必要に応じて心地よい温熱(お灸)で、残留した邪気(冷えや湿)をやさしく散らし、神経の興奮を鎮めます。
代表的な選穴例:痛みの川の流れを整える
痛みのライン(経絡)と体質(疲労、冷えなど)に応じて、ツボを使い分けます。
| 目的 | 例 | 東洋医学的なねらい |
|---|---|---|
| 背部ラインの緊張緩和 | 膏肓・天宗 | 痛みのある肩甲帯の深部のこわばり(気血の詰まり)をゆるめ、体幹部の緊張を解放します。 |
| 胸郭〜側胸の痛み | 期門・帯脈 | 肋間の気の張り(肝の滞り)と、呼吸による胸郭の同調を促し、痛みを緩和します。 |
| 神経過敏の鎮静 | 内関・神門 | 心(精神・循環)の経絡に働きかけ、自律神経の過敏さを鎮め、睡眠の質を改善します。 |
| 体力の底上げ | 足三里・三陰交 | 消化吸収(脾胃)と血流の基礎づくりを行い、神経修復に必要な気血を生成します。 |
西洋×東洋の役割分担:協力して「慢性痛」を乗り越える
帯状疱疹後神経痛は、急性期(炎症期)の迅速な鎮火と慢性期(鎮火後)の体質改善という、異なるアプローチを必要とします。西洋医学と東洋医学は、それぞれの強みを活かして協力体制を築くことが最も重要です。
- 西洋医学の役割:急性期や命に関わる分野、外科的処置や合併症の管理に強みがあります。炎症のピークを抑え、神経のダメージを最小限に食い止めるための、「緊急消火活動」の役割です。
- 東洋医学の役割:慢性的な痛みや、体質由来の神経の過敏さに強く、「病気の残りカス(瘀血、湿熱)」を取り除き、再燃しにくい土台づくりを担います。
- どちらが上ではなく「和食と洋食」:どちらの医学も重要であり、優劣はありません。状況に合わせて最適解を選ぶ「二本柱」という考え方です。病院での薬物療法と並行して鍼灸を行うことで、副作用を軽減しつつ、回復を加速させることが可能です。
併発しやすい症状:痛みの背景にある「全身の消耗」
帯状疱疹後神経痛を抱える方は、ウイルス感染による体力の消耗(正気の不足)や、長引く痛みによる自律神経の緊張から、以下のような全身の不調を併発していることが非常に多く見られます。東洋医学では、これらをまとめて体質として捉え、改善を目指します。
- 慢性肩こり・首こり、背部のこわばり:痛みの部位だけでなく、その周囲の気血の巡りが滞り(瘀血・気滞)、筋肉が過緊張しているサインです。これがさらに神経への圧迫を招きます。
- 睡眠の質低下・自律神経の乱れ:痛みや不安、そして体内の熱(心火)が鎮まらないため、心(しん:精神)が安らげず、不眠や眠りの浅さにつながります。
- 鼻炎・花粉症など呼吸器の弱り:東洋医学で「肺(はい)」が司る体表のバリア機能(衛気)が弱っているサインです。免疫力が低下し、外部の環境変化に過敏になっています。
- 冷え・むくみ、消化の弱り:体力消耗により気血を生成する力(脾胃の働き)が落ちているサインです。消化機能の低下からくる水(すい)の偏りが、冷えやむくみ(水毒)として現れます。
- ストレス反応の強さ:長引く痛みへの予期不安や、肝(かん:自律神経)の気の滞りから、緊張状態が続きやすくなります。少しのストレスや寒さで痛みがぶり返すのは、体質の土台が不安定な証拠です。
鍼灸治療では、これらの併発症状も全身のバランスの乱れとして捉え、まとめて緩和へと導きます。
料金について
初回:5,500円(税込)
2回目以降:5,000円(税込)
院長プロフィール
中村 麻人(なかむら あさと)
札幌「東洋中村はり灸院」院長・鍼灸師。
「森を見て木を治す」東洋医学の視点で、肩こり、腰痛をはじめ、生理痛・顔面神経麻痺・潰瘍性大腸炎・耳管開放症など病院で原因不明、治療法がない慢性疾患を中心にはり治療を行っています。
