斜視・複視への東洋医学的視点:
眼筋の緊張を和らげ、視覚のご負担を軽減する
視点が合いにくい、あるいは物が二重に見えるといった状態は、眼球を支える筋肉の緊張バランスが崩れていることが一因と考えられます。
東洋医学では、目を動かす筋肉の状態を全身の巡りや、内臓の働きと深く結びついたものとして捉えます。
「眼の緊張を調整する力」を司る肝(かん)や、土台を支える腎(じん)を整えることで、筋肉の過度な強張りが和らぎ、視界の安定を助ける場合があります。
手術や矯正と並行し、お身体の内側から「見る力」の基盤を整えることは、日々の視覚的な疲れを軽くするための一つの選択肢となります。

目次
物が二重に見える複視や眼精疲労に悩む斜視に対し、お身体全体のバランスを整え、眼筋の緊張緩和と健やかな視覚を支える東洋医学の道筋を解説します。
- 斜視の状態と日常への影響:視点のズレと、それに伴う全身の疲れ
- 斜視の種類と発症の傾向:方向や間欠性に応じた体質の捉え方
- 治療選択の考え方:部分的な処置と、全体を整える視点の調和
- 東洋医学の役割:眼の筋肉を司る働きを整え、負担を和らげる
- 鍼灸(経絡治療)の具体:全身の調整を通じた眼筋へのアプローチ
- 施術の実際:眼に触れず、経絡の巡りを整えることで視界を支える
- 随伴しやすいお身体の不調:視覚の悩みの背景にあるサイン
- 経過の目安:お身体の土台を整え、安定した状態を目指す歩み
- 日常生活での養生:眼の緊張を緩め、自律神経を整える習慣
- 施術料金と、お身体を整えていくための通院の考え方
- ご相談・ご予約はこちらから
- 院長プロフィール

斜視の状態と日常への影響:
視点のズレに伴う視覚のご負担と全身の疲れ
斜視に伴う視覚的な状態
斜視は、左右の目の視線が同じ目標に向かわず、一方が上下左右などにずれる状態を指します。眼球を動かす筋肉(眼筋)や、それを制御する神経の働きが関与しています。
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複視・視界の揺らぎ:
左右の目が異なる像を捉えるため、物が二重に見える(複視)、あるいは視界がぼやけてピントを合わせるのに時間がかかる場合があります。 -
無意識の代償動作:
一つの像を捉えようとして、無意識に首を傾けたり片目を細めたりする習慣がつき、お身体の左右バランスに影響が出ることがあります。 -
持続的な眼精疲労:
常に視覚情報を統合しようと脳や眼筋が働き続けるため、眼の奥の重さや、乾き、まぶしさを強く感じやすくなる傾向があります。
例えるなら、「わずかに角度の違う二つのカメラ映像を、脳が一枚に合成し続けようとしている」ような状態であり、これが持続的な緊張の要因となります。
全身の状態や生活への波及
視覚を一定に保とうとする努力は、目だけでなく全身の緊張状態を招くことがあります。
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心身の緊張:
視線の向きを気にされることで、対面でのやり取りに気疲れを感じたり、人混みなど視覚情報の多い場所で過度に疲れやすくなる場合があります。 -
首・肩・頭部への負担:
視覚の調整を補おうとして、後頭部や首筋、肩回りの筋肉が強張り、頑固なこりや重だるさ、頭痛といった不調に繋がることがあります。

斜視の種類と発症の傾向:
方向・間欠性と、お身体の緊張状態の関係
斜視には、目のずれる方向や現れるタイミングによっていくつかの分類があります。東洋医学の視点では、特にお身体の疲れや緊張に伴って症状が変化しやすいタイプに対し、全身の調整を検討いたします。
方向と現れ方による分類
- 方向: 内斜視(内側)、外斜視(外側)、上下斜視など
- 現れ方: 常にずれる(恒常性)、時々ずれる(間欠性)
特にお身体の消耗や、一日の疲れが溜まった夕方などに症状が強く感じられる場合、全身の巡りを整えることで、ご負担が軽くなる可能性があります。
現代的な発症と自律神経
幅広い世代で相談をいただきますが、働き盛りの世代においては、眼精疲労や自律神経の乱れが重なった際に、視覚の違和感が顕在化しやすい傾向にあります。
これは、お身体のオンとオフの切り替えがうまくいかず、眼球を支える筋肉が微細な調整力を失いやすくなっているためと考えられます。
近距離注視の影響について
スマートフォンなどの画面を長時間見続ける習慣は、眼の筋肉を一点に固定し続けるため、強い緊張を招くことがあります。
- 眼への負荷: 近い距離を注視し続けることは、お身体を緊張させるスイッチを押し続けることになり、筋肉の柔軟性を低下させることがあります。
- 休息の重要性: 特に成長過程にある方の場合、意識的に遠くを見る時間を設けるなど、筋肉を緩める養生が大切になります。

視点の違い:
斜視における「部分の処置」と「全体の体質調整」の調和
斜視の状態に向き合う際、眼の筋肉という「局所」の状態を捉えることと、それを支える「全身」のバランスを捉えること、両方の視点が大切になります。
部分の視点
(現代医学的なアプローチ)
眼筋のバランスや神経の伝達など、眼そのものの構造的な状態に着目する考え方です。
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精密な評価:
視能訓練や専門的な検査により、眼位のズレの度合いや、筋肉の麻痺の有無を客観的に把握します。 -
直接的な処置:
プリズム眼鏡による矯正や手術など、物理的なアプローチによって、視線のズレを速やかに整えることを得意とします。 -
役割:
構造上の不具合を修復することで、視覚情報の入り口を整える重要な役割を担います。
全身の視点
(東洋医学的なアプローチ)
斜視の状態を、全身の巡りや内臓の働き、自律神経の乱れの結果として捉える考え方です。
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体質からの調整:
筋肉の柔軟性を司る「肝」や、精力を蓄える「腎」などの働きを整え、眼の筋肉が本来の動きを取り戻しやすい環境を作ります。 -
緊張の緩和:
全身の強張りを解くことで、疲労時に顕著になりやすい複視や、視覚に伴う頭痛・肩こりなどの負担が軽くなる場合があります。 -
役割:
例えるなら、「一本の木(眼)を育むために、周囲の土壌(全身)を豊かに整える」ような、土台づくりの役割を担います。

東洋医学の捉え方:
眼筋の働きを支える「肝・脾・腎」の調整による全身の調律
東洋医学では、斜視や複視の状態を眼そのものの変化としてだけでなく、眼を動かす筋肉の柔軟性や神経の働きを支える「全身の機能」の反映として捉えます。
眼の筋肉の働きに関わる「五臓」の視点
肝(かん)の働き
「肝は目に開竅(かいきょう)する」と言われ、眼の機能と筋肉の伸びやかさを司ります。血が不足したり巡りが滞ったりすると、筋肉の細かな調整が難しくなり、視界に違和感が出やすくなる場合があります。
脾(ひ)の働き
食べたものからエネルギーを生成する土台です。脾の働きが弱まると、筋肉を養う栄養が行き渡りにくくなり、疲労時に眼を支える力が維持できず、ズレが顕著になることがあります。
腎(じん)の働き
生命力の源であり、筋肉や神経の回復力を司ります。慢性的な寝不足や過労で腎の機能が消耗すると、眼筋の緊張が解けにくくなり、視覚的なご負担が重なる傾向にあります。
お身体全体の巡りを整え、これら「五臓」のバランスを健やかに保つことで、眼の筋肉にかかる過度な緊張が和らぎ、視界の安定を助けることにつながります。 これは、「個々の筋肉を直接操るのではなく、それらが正しく動くための舞台装置(全身)を整える」という発想に近いものです。

鍼灸(経絡治療)の具体と特徴:
全身の調整による眼筋の安定とご負担の軽減
治療の方針
(全身からの調律)
経絡治療では、眼そのもののズレだけでなく、その背景にある体質の偏りに着目します。眼を動かす筋肉が本来の調整力を発揮しやすいよう、お身体の内側から土台を整えていきます。
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気血の巡りを整える:
眼を養う「血(けつ)」の不足や、巡りの滞りを和らげます。お身体の隅々まで栄養やエネルギーが届く環境を作ることで、筋肉の過度な強張りが解けやすくなります。 -
自律神経の安定:
自律神経を整えることで、無意識のうちにかかっている眼筋への緊張を緩和します。これにより、疲れやストレスによって悪化しやすい見え方の波が穏やかになる場合があります。 -
遠隔からのアプローチ:
目元だけでなく、手足や背中のツボを組み合わせて施術を行います。これにより、全身の機能バランスを底上げし、眼の調整にかかる過度なご負担を分散させます。
例えるなら、「視線を操る細かなワイヤーの緊張を、身体という土台全体のバランスを整えることで緩めていく」ような進め方です。
施術の特徴と変化の現れ方
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刺激を抑えた穏やかな施術:
非常に細い鍼や、熱さを感じにくい柔らかなお灸を使用します。過度な刺激を避け、お身体が本来持っている回復力を静かに引き出すことを優先します。 -
個々の体質に合わせた選定:
その日の体調や、一日のうちでも変化する症状に合わせて、用いるツボや刺激の量を微調整します。 -
随伴症状のケア:
視覚のご負担に伴って現れやすい肩こりや頭痛、あるいは冷えや不眠といった全身の不調に対しても、同時にアプローチを組み込んでいきます。

目に触れない施術と主なツボ:
全身の経絡調整による眼筋の調律サポート
斜視に対する鍼灸施術では、目元に直接鍼をすることに不安を感じる方でも安心して受けていただけるよう、手足や頭部にあるツボを中心に活用いたします。東洋医学の経絡(気の通り道)を整えることで、遠隔から眼の働きを調律していきます。
眼筋の緊張を和らげるツボの例
筋肉のしなやかさや血流を司る「肝(かん)」に関連するツボを整え、眼の微細な調整力をサポートします。
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百会(ひゃくえ):
頭の頂点に位置します。全身の気が集まる場所とされ、頭部の緊張を解き、自律神経の安定を助ける場合があります。 -
目窓(もくそう):
頭部の側面に位置します。その名の通り、目周辺の巡りを整えるポイントとして、眼精疲労の緩和に用いられることがあります。 -
合谷(ごうこく):
手の甲にある有名なツボです。首から上の巡りを促す働きがあるとされ、眼を支える首肩周りの強張りを和らげる際に選択します。
巡りの滞りを解消するツボの例
自律神経と密接に関わる「胆(たん)」の経絡を用い、ストレスや疲労による眼筋の強張りを和らげます。
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頭部の連なるツボ(頷厭、懸顱、懸釐):
こめかみ付近から耳の上にかけて配置されています。これらは眼筋を動かす神経の通り道と重なる部分も多く、頭の側面から眼の緊張を解きほぐす役割を担います。
イメージとしては、「視界を調整する精密な計器そのものに触れるのではなく、それを動かすための電力系統や制御盤(全身の経絡)をメンテナンスする」ような形です。

併せ持ちやすい不調:
斜視の背景にある全身のサインと体質的なつながり
斜視、特に疲れやストレスによってズレが顕著になる間欠性の状態では、眼そのものだけでなく、筋肉の緊張や体力を司る「肝・腎(かん・じん)」などの機能が不安定になっていることがあります。そのため、以下のようなお身体のサインを同時に感じておられるケースが多く見受けられます。
巡りと緊張に関するサイン
(自律神経や巡りの乱れ)
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筋肉の強張り:
首や肩の慢性的な凝り、緊張性の頭痛。眼のピントを合わせようとする過度な努力が、周辺の筋肉へ影響を及ぼしている場合があります。 -
冷えと血流:
手足の末端の冷え。全身の巡りが滞ることで、眼の筋肉を養う栄養(血)が十分に届きにくい状態を示唆します。 -
バリア機能のゆらぎ:
鼻炎や乾燥肌など、粘膜や皮膚の弱さ。これらはお身体の外側を守る力(気)の不足と関わりがあると考えます。
消耗や内面からのサイン
(エネルギーや栄養の不足)
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婦人科系の不調:
生理痛や生理不順。東洋医学では、眼と子宮はともに「血(けつ)」の巡りに深く関わっているため、同時に負担が現れることがあります。 -
爪の変化:
爪が割れやすい、縦線が目立つ。爪は筋肉と同様に「肝」の状態を映し出す場所とされており、血の巡りの指標となります。 -
疲労の蓄積:
風邪をひきやすい、咳が長引く。お身体の基礎となる体力が低下している場合、眼筋の調整力も維持しにくくなる傾向があります。
例えるなら、「一本の樹の枝葉(目)に現れている偏りは、その根や幹(全身の体質)に生じている栄養や巡りの滞りの反映」であると捉えています。
東洋医学では「お身体はすべてつながっている」という視点を大切にします。眼の負担と同時に、これら全身の不調を一つひとつ丁寧に紐解いていくことで、結果として日々の生活における「見え方の疲れ」が和らいでいくことが期待されます。

経過の目安とペース:
体質を整え、複視や疲労に対する土台を養う
斜視や複視への東洋医学的なアプローチは、眼筋の緊張緩和と並行して、それを支える全身の血流や自律神経の働きを立て直していくことを目的としています。そのため、変化を定着させるには一定の期間をかけて積み重ねていくことが望ましいと考えられます。
施術のペースと変化の現れ方
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初期の調整期:
まずは週に1回程度の頻度で施術を行い、お身体の巡りを整えます。この時期には、眼の奥の強張りが和らいだり、随伴する頭痛や肩こりの頻度に変化が現れたりすることがあります。 -
体質の安定期:
全身のバランスが整い始めるまで、約10回(3ヶ月程度)を一区切りとして継続することをお勧めしています。お身体の土台が安定してくることで、疲労時でも視界のご負担が重なりにくくなる場合があります。 -
維持・定着期:
数ヶ月かけて体質を養うことで、季節の変わり目や環境の変化による影響を受けにくくなり、視界の安定性が保たれやすい状態へとつながります。

セルフケアのヒント:
眼精疲労と自律神経の緊張を解く養生法
鍼灸の施術によって整い始めたお身体の状態を維持するためには、眼にかかるご負担を日々の生活の中で逃がしていく工夫が大切です。東洋医学の視点から、眼を司る「肝」を労わり、回復力を助けるいくつかの習慣をご紹介します。
眼の負担を和らげるための習慣
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視界の休息:
PCやスマートフォンを長時間使用する際は、40分に一度は画面から目を離し、遠くの景色を眺めたり、軽く目を閉じたりしてピント調節の緊張を緩めましょう。 -
光の調節:
夜間はスマートフォンの明度を下げ、室内を落ち着いた暖色系の明かりにすることで、交感神経の過剰な高ぶりを抑えます。強い光刺激を控えることは、眼筋の緊張緩和につながる場合があります。 -
首まわりの保温:
首の付け根や肩を温めることで、眼や頭部への巡りが整いやすくなります。温熱シートやホットタオルなどを活用し、リラックスした状態で深呼吸を行う時間を作ってみてください。 -
足元の温め:
下半身を温めることは、お身体の回復力を支える「腎」を養うことにつながります。足湯や半身浴によって「頭寒足熱」の状態を作ることで、眼の奥に溜まった緊張が抜けやすくなることがございます。 -
食生活の配慮:
冷たい飲食物や甘いものの過剰な摂取は、体内の巡りを滞らせる原因となることがあります。なるべく温かいものを選び、お身体の内側を冷やさないよう心がけてみてください。
例えるなら、「日々の養生は、施術で整えたお身体という器を、生活の疲れという波から守るための穏やかな防波堤」のようなものです。

施術料金と通院ペースの目安:
お身体の土台を整え、眼筋の働きをサポートするために
当院で行う斜視・複視への施術は、全身の巡りや自律神経のバランスを整え、眼筋が本来の働きを維持しやすい土台を作ることを目的としています。自由診療(保険外)となりますが、お一人おひとりの体質に合わせた丁寧な調整を心がけております。
現在のお困りごとや全身の状態を詳しく伺い、東洋医学的な観点からお身体の偏りを把握します。その上で、今後の指針となる施術計画を立ててまいります。
初回に立てた計画に基づき、その日の体調に合わせてツボを選択します。眼の周囲の緊張緩和と、全身の巡りの安定を段階的に進めてまいります。
通院ペースに関する考え方
お身体が新しいバランスを覚えるまでには、ある程度の継続が必要となることがございます。状態の変化に合わせて、以下のような段階をご提案しています。
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調整期(初期段階):
週に1回程度の頻度で施術を重ねることで、お身体の巡りを安定させます。この時期に、視界のご負担や疲れやすさに変化が現れることが期待されます。 -
定着期(安定し始めた時期):
お身体の反応を見ながら、10日から2週間に1回へと少しずつ間隔を空けていきます。良い状態を長く維持できる土台を作っていく時期です。 -
維持期(健やかな状態の維持):
その後は、月に1回程度の定期的なメンテナンスをお勧めしています。日々の疲れや季節の変わり目による影響を最小限に抑え、健やかな視界を支えます。
例えるなら、「通院は、少しずつ傾いてしまった建物の基礎(体質)を、時間をかけてまっすぐに整え直していく作業」のようなものです。焦らず、お身体のペースに合わせて進めていきましょう。

ご予約・ご相談
院長プロフィール
中村 麻人(なかむら あさと)
札幌「東洋中村はり灸院」院長・鍼灸師。
「森を見て木を治す」視点で、見え方の負担と全身のゆらぎを同時に調整。巡り・自律・回復のちからを引き出します。
