眼精疲労と東洋医学:
「肝」の働きを整え、目の負担を和らげる
東洋医学では、目は「肝(かん)」という臓腑と深い関わりがあると考えています。目を酷使し続けることは、お身体に蓄えられた栄養である「血(けつ)」を消耗させることにつながります。
この蓄えが少なくなると、目に潤いや栄養が行き渡りにくくなり、重だるさや違和感として現れる場合があります。鍼灸では、目周囲の巡りを促すとともに、お身体の土台を調えることで、視界の負担が軽くなるようお手伝いをさせていただきます。

目次
眼精疲労とそれに関わるお身体のバランスについて、東洋医学の視点を交えながら、ご自身の状態を理解するための手がかりを整理しました。

眼精疲労の捉え方:
目の違和感と全身に及ぶ影響
眼精疲労(アステノピア)とは、目を使い続けることで生じる疲れが、休息や睡眠をとっても容易に回復せず、お身体の各所に違和感が残る状態を指します。
例えるなら、「使いすぎたカメラのレンズが熱を持ち、機械全体の動きが鈍くなっている」ような状態と言えるかもしれません。
目を中心とした変化
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局所的な違和感:
目がしょぼしょぼする、乾燥による痛みを感じる、充血や涙が出やすくなるといった状態。 -
視覚の不安定さ:
視界がぼやける、ピントを合わせるのに時間がかかる、光を以前よりまぶしく感じるといった変化。 -
その他の併発:
ドライアイや首まわりのこわばりが同時に現れることが少なくありません。
全身への波及について
目の負担が重なると、自律神経の働きを通じて、目以外の場所にも影響が出ることがあります。
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頭部や神経への影響:
重い頭痛や吐き気、めまい、顔の筋肉のこわばりなどが生じる場合があります。 -
お身体や心の状態:
何となくお身体が重い、気分が沈みがちになる、落ち着かないといった変化を伴うこともあります。

眼精疲労の要因:
生活環境と東洋医学が捉える「肝」の働き
現代的な生活環境の影響
日常的な目の酷使や環境的な負荷は、視覚を司る繊細な組織に持続的な緊張を強いることがあります。
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視覚にかかる持続的な負荷:
長時間のデジタルデバイス使用によるピント調整の連続や、眼鏡・コンタクトの度数が現状と合わなくなっている場合など。 -
自律神経の調節バランス:
睡眠の質の低下や持続的な緊張状態により、目の周りの筋肉や血流を調節する力が低下しやすくなることがあります。
東洋医学的な視点
東洋医学では、目は「肝(かん)」という働きと深く結びついていると考えています。この働きの乱れが、疲れやすさに繋がる場合があります。
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肝と「血(けつ)」の役割:
「肝」はお身体に必要な栄養を含む「血」を蓄え、それを全身へ巡らせることで、目や筋肉の柔軟な動きを支えています。 -
疲労が生じる仕組み:
目を使いすぎたり休息が不足したりすると、この蓄えが消耗されます。補給が追いつかなくなると、目に十分な潤いが行き渡りにくくなり、違和感が生じやすくなります。
「深い井戸の水を汲み出しすぎて、一時的に水が枯れ始めている」ような状態をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

目薬との向き合い方:
一時的な緩和と、お身体の内側を整える視点
目薬は、目の乾燥や不快感を一時的に和らげるために有用な手段です。一方で、目の潤いを維持する本来の働きや、疲労の背景にあるお身体のバランスを整えることとは、役割が異なる側面があります。
一部の目薬に含まれる成分には、頻繁に使い続けることで目の表面に負担をかけ、かえって違和感が生じやすくなるものもあります。ご自身の状態に適した製品を、適切な回数で使用することが大切です。
活用のポイントと東洋医学の考え方
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使用は必要最小限に留める:
目薬は一時的な補助として活用し、お身体が自ら潤いを保てるよう、生活習慣の改善を並行して進めることが望ましいと考えられます。 -
違和感がある場合は専門医へ:
点眼後に刺激を感じたり、なかなか状態に変化が見られなかったりする場合は、使用を控えて眼科医に相談し、適切な指示を仰ぐようにしてください。 -
点眼時の工夫:
点眼した後は、静かに目を閉じ、目頭のあたりを軽く押さえることで、薬液が目的の場所に留まりやすくなる場合があります。 -
お身体の内側からの補給:
目薬が「外から補う潤い」であるのに対し、東洋医学では「地中の水源を整え、自然に水が湧き出す状態」を目指します。お身体の蓄えである「血(けつ)」を養い、巡りを整えることで、目薬の使用頻度が自然に落ち着いていく場合もあります。

眼精疲労になりやすい体質:
「肝」の働きとお身体のつながり
東洋医学では、目は「肝(かん)」という働きと密接な関わりがあると考えています。肝は全身の血(けつ)を蓄え、筋肉や神経の動きを調節する役割を担っています。この働きに乱れが生じると、目に負担がかかりやすくなる場合があります。
支配領域に現れるサイン
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視覚とピント調整:
もともと近視や乱視などがある場合、肝の蓄えが少なくなると、目のピントを合わせるための調整力が維持しにくくなることがあります。 -
筋肉や爪の状態:
肩や首のこわばり、腰の重さ、あるいは爪が割れやすいといった現象は、肝が養っている組織への巡りが滞っている一つの目安となります。 -
粘膜の敏感さ:
鼻炎や季節によるお身体のゆらぎなどは、肝の働きの乱れが、外からの刺激に対する防御力の低下に繋がっている可能性があります。
「滑らかに動くべき関節や筋肉の潤滑油が不足している」ような状態がお身体の各所に現れているのかもしれません。
体質や日常の傾向
肝の気の巡りがスムーズでないときや、蓄えが不足しているときには、以下のようなお身体の傾向が見られる場合があります。
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女性特有のゆらぎ:
生理痛や生理周期に伴うお身体の変化(PMSなど)は、肝が血を管理しているため、目の疲れと連動して現れることがあります。 -
情緒の変化と嗜好:
一時的に感情が高ぶりやすくなったり、落ち着かない感覚を覚えたりすることもあります。また、酸味のあるものを無意識に好むようになることもあります。
眼精疲労という局所的な変化を、お身体全体からのサインとして捉え直すことで、ご自身の今の状態をより深く理解し、負担を和らげる手がかりが見つかる場合があります。

鍼灸(経絡治療)の実際:
全身のバランス調整による負担の軽減
眼精疲労に対して、当院ではお身体の蓄えである「血(けつ)」を養い、全身の巡りを整える経絡治療を行います。目の周囲だけでなく、根本的な要因へアプローチすることで、休息によって回復しやすい状態を目指します。
当院の施術方針
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「肝」の働きを整える:
目に栄養を運ぶ役割を持つ「肝」の機能を整え、視覚やピント調整に関わる組織へ、安定して潤いが行き渡るよう働きかけます。 -
全身のツボ(反応点)を活用:
手足や背中など、お身体の状態に合わせた場所に触れることで、内臓の働きを底上げし、目にかかる負担を分散させることを図ります。 -
自律神経へのアプローチ:
非常に細い鍼や温和なお灸を用いることで、持続的な緊張を和らげ、お身体をリラックスした状態へ導くお手伝いをいたします。
「細くなった水路を掃除し、隅々まで水が行き渡るように整える」ような、穏やかな調整を重ねていきます。
期待できる変化
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目の違和感の緩和:
日常的に感じていたかすみや、まぶしさ、重い疲れの頻度が少しずつ落ち着いていく場合があります。 -
随伴する不調への影響:
肝の乱れと関連の深い頭痛、首肩のこわばり、女性特有のゆらぎなどが、目の変化と合わせて和らぐことも少なくありません。 -
お身体への配慮:
刺激の少ない方法を選択しているため、体力の消耗が気になる方でも、落ち着いて施術を受けていただけるよう配慮しております。

お身体の状態を見極める診察:
四診法による体質の把握と評価
眼精疲労の背景には、栄養の蓄えである「血(けつ)」の状態や、巡りを司る「肝」の働きが関わっている場合があります。当院では以下の四つの視点(四診法)を通じて、今の状態を整理していきます。
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望診(ぼうしん):
お顔の色ツヤや姿勢、お身体の動きなどを拝見します。特に舌の状態は、お身体の蓄えや熱の状態を映し出す鏡のような役割として観察させていただきます。 -
聞診(ぶんしん):
お声の響きや呼吸の様子などを通じて、お身体のエネルギーの充足度や、内側の緊張の度合いを推測します。 -
問診(もんしん):
目の疲れ方、作業環境、睡眠や食事の傾向、生理周期に伴う変化など、日々の生活におけるサインを伺い、負担の要因を共に探ります。 -
切診(せっしん):
手首の脈に触れる脈診や、お腹の弾力を見る腹診、手足のツボの反応を確認します。これにより、今の状態に適した施術箇所を選定します。

主な経穴とセルフケア:
巡りを整え、目の負担を和らげるための視点
施術で用いることのある経穴
眼精疲労の際、当院では目の周囲だけでなく、頭部や手足にあるツボを組み合わせることがあります。これらを通じて、お身体全体の緊張を緩めるお手伝いをいたします。
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百会(ひゃくえ):
頭頂部にあり、全身の気の流れを整える場所とされます。頭の重さや目の疲れに伴う高ぶりを落ち着かせる際に用います。 -
風池(ふうち):
うなじの生え際に位置します。頭部への巡りを促すことで、首肩のこわばりと目の疲れの両方に働きかけることが期待できます。 -
手足の経穴(外関・臨泣など):
腕や足にあるこれらのツボは、巡りの滞りを解くために活用されます。お身体のバランスを整え、目の調整機能をサポートします。
「川の詰まりを上流から整え、下流まで穏やかに水が流れる状態」を目指して、経穴を選定いたします。
日常生活でのセルフケア
ご自宅でも、無理のない範囲で以下のことを意識していただくと、お身体の緊張が和らぎやすくなる場合があります。
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三陰交(さんいんこう)の保護:
足の内くるぶしの上にあるツボです。ここを温めたり、優しくさすったりすることで、お身体の蓄えを養う働きを助けます。 -
側頭部の穏やかなマッサージ:
こめかみ付近を、指の腹で円を描くように優しく撫でます。目の奥の緊張が緩みやすくなる場合があります。 -
休息と温熱:
蒸しタオルなどで目を温め、静かに呼吸を整えます。自律神経の過度な高ぶりを抑え、目の筋肉を休ませるために有用な習慣です。 -
足元の加温:
足湯や半身浴などで下半身を温めることは、全身の巡りを底上げし、目にかかる負担を分散させる助けとなります。

経過の目安:
お身体の調和と負担が軽減するまでの期間
眼精疲労を生じやすいお身体の傾向を整えるには、一時的な変化だけでなく、持続的な調整が必要となる場合があります。以下に、一つの目安としての経過を記します。
施術の頻度と期待される変化
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初期の変化:
お身体の緊張や首肩のこわばりが強い場合、比較的早い段階(数回程度)で「目の周囲が少し軽くなる」「重い感覚が和らぐ」といった変化を覚えることがあります。 -
体質を整える期間:
東洋医学でいう「肝」の働きを安定させ、巡りを定着させるためには、まずは週に1回程度のペースで、4ヶ月(約16回)ほど継続されることが一つの基準となります。 -
負荷に合わせた調整:
PC作業の増加や季節の変わり目など、生活環境による負荷の変動がある時期は、お身体の反応を見ながら施術のタイミングを相談させていただきます。
「使い古された土壌を少しずつ耕し、栄養が巡る豊かな地へ戻していく」ような、穏やかで着実な歩みを大切にしてまいります。

日常のヒント:
目の健やかさを守り、内側から養うための養生法
鍼灸での調整と合わせて、日常生活の中で目の緊張を和らげる工夫を取り入れることで、お身体への負担が軽くなる場合があります。東洋医学の視点から、いくつかの養生法を共有いたします。
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視線のリセット(20-20-20の意識):
20分ほど画面を見続けたら、20秒間、遠くをぼんやりと眺める習慣を持ってみましょう。これはピントを合わせるための筋肉の緊張を解く、穏やかな休息になります。 -
潤いを守るまばたき:
集中するとまばたきの回数が減り、目の表面が乾きやすくなる傾向があります。意識的にゆっくりとまばたきを行うことで、潤いを保つお手伝いになります。 -
作業環境の調整:
画面との距離を適切に保ち、目線が少し下がる位置に配置することで、目の乾燥や首の筋肉への負担を抑えることが図れます。 -
睡眠と休息の質:
夜更かしは東洋医学でいう「血(けつ)」の消耗につながると考えられています。少し早めに目を休ませる時間を設けることが、明日の健やかさにつながります。 -
お身体の巡りを助ける習慣:
足湯や半身浴などで下半身を温めると、全身の巡りが底上げされ、目にかかっていた過度な緊張が和らぎやすくなる場合があります。
「日々の中で受けた小さな負担を、その日のうちに静かに手放していく」ような、優しい心掛けを大切にしていきましょう。

施術料金と経過の考え方:
お身体の調和を保つための通院ペース
当院の施術は、目の周囲の緊張を和らげるとともに、その背景にある全身のバランスを整えることを目的としています。今の不調を一時的にしのぐだけでなく、負担がかかりにくいお身体の土台作りを、長期的な視点で支えてまいります。
現在の目の状態や日々の生活習慣を詳しく伺い、東洋医学の視点からお身体の傾向を分析します。これに基づき、施術の組み立てを行います。
前回からの変化を確認し、その日のお身体の状態に合わせて経穴(ツボ)を選定します。全身の巡りを整え、負担の軽減を図ります。
経過に合わせた通院の目安
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調整期(負担が重なっている時期):
まずはお身体の緊張を解きほぐすため、週に1〜2回程度の施術から始めることが一般的です。過剰な高ぶりを鎮め、回復のきっかけを作ります。 -
定着期(少しずつ落ち着きが見え始めた時期):
週に1回程度のペースで、整えた状態をお身体に馴染ませていきます。巡りが安定することで、日々の負荷を柔軟に受け流せるよう、基礎を固めます。 -
維持期(健やかさを保つ時期):
状態が安定してきたら、2週間から1ヶ月に1回程度のメンテナンスへと移行します。お身体のバランスを定期的に見守り、再発しにくい状態の維持を助けます。
「使い切った乾電池を少しずつ充電し直す」ように、お身体のエネルギーの蓄えをゆっくりと戻していく過程を大切にしています。
無理のない範囲で、着実にお身体を整えていきましょう。

ご予約・ご相談
院長プロフィール
中村 麻人(なかむら あさと)
札幌「東洋中村はり灸院」院長・鍼灸師。
「森を見て木を治す」全身の視点で、目の疲れと体の滞りを同時に整えます。
